随分昔に、大先輩のパントマイマーさんから
工業デザイナーの方々を対象としたワークショップのお話を伺ったことがあります。
まず受講者を前に、部屋でくつろいでいるような場面を演じるそうです。
シンプルなイスと机のみが置かれた空間。
男の人が疲れてフラフラと部屋に入ってくる場面だったり
部屋でのんびりお酒を飲む場面だったり演じた後で、課題が出されます。
「さて、この場面で男の人が使っている電話機をイメージしてデザインしてみましょう。」
こういう試みって面白いと思います。
パントマイムの醍醐味ってそこにない物や音、香り、味などを
観客が想像して体験できるところなんですよね。
最近、自分もコミュニケーション系の講義をした時、
受講者の前で作品の一部を演じてみせて
一体何をしていたのか、話し合って発表してもらう
ということをやってみました。
作品を見せて感想を聞くことはあっても、具体的に何をしていたのかを観客に聞くのは
初めての試みだったので、とても興味深かったです。
ほとんどがパントマイムを生で見るのは初めて、という方たちでした。
例えば「ポケットから鍵を取り出してドアを開ける」とか
「帽子を脱いでフックに引っ掛ける」といった比較的分かり易い動作も、
まったく言葉を使わないで表現すると、どうしても自信が持てないようです。
「多分、鍵を使ってドアを開ける感じの動きをして、多分その後電気のスイッチを入れだんだと思います。
あと多分だけど帽子とかを壁にかけたような感じで、それから多分…」
といった具合になります。
こちらの動作が分かり辛くてそういう言い方になってしまうのかもしれませんが(苦笑)
でも聞いてみると、こちらがやったことは全て伝わっているようです。
ただ、それを発表する際には
「多分~のような事をしたと思うんですが…」
という言い方になるんですね。
やはり近年SNSとかメールとかが主流になってきて
直接対面してコミュニケーションする機会が減っているので
人の動作などに対する自分の感覚に、確信が持てないのかもしれないですね。
ただ中にはこちらが意図した以上の事を読み取ってくれた意見もあります。
ミュージックプレイヤーをポケットから取り出すしぐさを見て
「時代設定が現在ではなく数年前だと思った」
という意見がありました。
最近は全てスマホで事が足りてしまいますかなね。
または怪しげな目つきから、
「その男の人は探偵だと思った」
といった意見など。
講義しているようで、実はこちらもたくさんのこと学ばせてもらっているわけです。